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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)458号 判決 1984年6月06日

裁判所書記官

萩原房男

本籍

東京都足立区千住元町一四番地

住居

同区千住四丁目七番九号

会社役員

松本守

昭和一〇年七月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年及び罰金一、八〇〇万円に処する。

二  右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

三  この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

四  訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都足立区千住橋戸町五〇番地所在の中央卸売市場足立市場において「<六松本商店」の名称で鮮魚仲買業を営んでいた松本六藏の長男で、同人の事業専従者としてその営業及び経理を掌理していたものであるが、右松本六藏の業務に関し、同人の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年分の実際総所得金額が八、六〇七万三、一一七円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五六年三月一三日、東京都足立区千住旭町四番二一号所在の所轄足立税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の総所得金額が二、五二五万二、五一三円でこれに対する所得税額が九七六万五、二五〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五九年押第六二一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四、八六六万八、四〇〇円と右申告税額との差額三、八九〇万三、一〇〇円(一〇〇円未満切捨、別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五六年分の実際総所得金額が七、六〇四万九、一三五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五七年三月一二日、前記足立税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の総所得金額が二、七九二万九、八三二円でこれに対する所得税額が一、一二六万六、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四、一五五万七、三〇〇円と右申告税額との差額三、〇二九万一、〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通)

一  松本六藏、松本悦子、松本サト、松本明の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

売上調査書

仕入調査書

減価償却費調査書

給料賃金調査書

専従者給与調査書

事業専従者控除額調査書

青色申告控除額調査書

利子所得調査書

一  大蔵事務官石田幸太郎作成の証明書

一  検察事務官佐藤英紀作成の捜査報告書

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の福利厚生費調査書

一  押収してある昭和五五年分所得税確定申告書一袋(昭和五九年押第六二一号の1)及び同所得税青色申告決算書一袋(同押号の3)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の修繕費調査書

一  押収してある昭和五六年分所得税確定申告書一袋(同押号の2)及び同所得税青色申告決算書一袋(同押号の4)

(法令の適用)

一  罰条

判示第一の所為につき、行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一、二項、二四四条一項、裁判時において右改正後の所得税法二三八条一、二項、二四四条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

判示第二の所為につき、右改正後の所得税法二三八条一、二項、二四四条一項

二  刑種の選択

いずれも懲役刑及び罰金刑の併科

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

刑法一八条

五  刑の執行猶予

刑法二五条一項

六  訴訟費用の負担

刑訴法一八一条一項本文

(量刑の理由)

被告人は、鮮魚仲買業を営む父のもとで、昭和二六年ころから事業専従者として働き、昭和五一、二年からは老齢の父に代わり業務全般を釆配していたが、取扱い商品が差益率の高い鮪や寿司種といった高級品であることや、被告人自身の優れた経営手腕と努力により順調に業績を伸ばしていたところ、経営にかなりゆとりのでてきた一四年位前から将来のための資産蓄積を考え、当日の粗利益が概算経費をある程度超えた場合に、現金売上から一部を抜き、妻に指示して売日記、売上帳を過少に改ざんさせて脱税を継続し、さらに昭和五三年ころからは、利益率が一段と上昇しだしたうえ、父が被告人の弟妹への財産分けを考えたことなどから、右の方法に加え、決算書作成時に粗利益が一五パーセント前後になるよう日計表、月計表を書き直して売上の除外を多くし、過少申告して本件に及んだものであって、本件の逋脱税額は二年分合計七、〇〇〇万円弱と特に高額の部類に属するとまではいえないとしても、犯行は右のように長期かつ継続的に行われていた行為の一環とみることができるうえ、犯行の動機、経緯にも格別酌むべき事情はなく、さらに脱税の方法も単純とばかりいえない面があることを考えると、被告人の本件刑責はたやすく軽視することができない。

しかしながら、被告人は、本件を契機に納税義務の重要性を認識し、父六藏の事業を有限会社にするとともに、自ら税務の研修を受けて再び同じ犯行を繰り返さないことを誓っており、査察調査の段階から終始事実を認めて脱税の内容を明らかにし、本件対象年分を含め五年分の修正申告をして、本税、加算税等をすべて納付していること、被告人は長年鮮魚の仲買一筋に生き、人一倍勤勉に働いてきた者で、前科、前歴は全くなく、生活上の態度にも問題とすべき点はないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情もあるので、これらを総合勘案して、懲役刑について刑の執行を猶予し、なお、右のような<六松本商店における被告人の地位、役割、被告人が父と生計を共にし、営業による利益を享受していることなどを考慮して主文掲記の罰金刑を併科することとして主文のとおり量刑する。

(求刑懲役一年、罰金二、五〇〇万円)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一) 修正損益計算書

松本六蔵

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

松本六蔵

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙(三) 税額計算書

松本六郎

(1) 自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

備考:番号14につき、実際額-申告額=38,903,150となるが、ほ脱額については100円未満を切り捨てた。

(2) 自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

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